2005年4月25日午前9時20分頃、兵庫県尼崎市のJR西日本(西日本旅客鉄道)福知山線(宝塚線)尼崎―塚口駅間で、同志社前行きの快速電車(7両編成、乗客乗員約580人、高見隆二郎運転士、23歳)が脱線し、線路沿いのマンションに激突するという事故があった。
4月26日夜現在、死者73人、ケガ人456人に達している。
この電車は、事故直前に手前の伊丹駅で停車する際にオーバーランしたため、後退等によって遅れが生じていた。TVなどで話している乗客によると、この遅れを取り戻すためか、かなりのスピードで走行していたという。現場は半径約300メートルのカーブになっており、通過制限速度は時速70キロメートルであったが、4月26日に記録装置を解析した結果では、事故直前の走行速度は時速約100キロメートルだったとのこと。
本件は、表面的には一民間企業が起こした事故であるが、その意味はもっと深い。
社会が効率を求める余り、安全が後回しになっていると感じざるを得ない。効率の追求は、日本に限ったことではなく、現代における世界的な大きな流れである。効率と安全とは必ずしも二律背反の関係にあるものではないが、効率追求だけが優先されすぎているのではないか。
これは鉄道会社だけでなく、様々な業種において共通の根を持つ現象が起こっている。
報道によると、この運転士は、2004年にも運転していた電車をオーバーランさせて、社内で処分を受けていた。運転士になる前も、車掌として、不適切な行動により訓告処分を受けていた。入社約5年で、鉄道マンとして熟練度が高かったとは決して言えない。そのような熟練度の低い運転士であっても、単独で運転席に座り、通勤・通学時間帯の過密なダイヤの中で電車を運転しなければならない。人材に余裕の無いギリギリの状態で鉄道を運行しているのだろうか。
また、この運転士は、伊丹駅でのオーバーランの距離を偽って報告するように車掌と示し合わせていたという事実も報道された。嘘をついた上に制限速度を超えてまで遅れを取り戻さなければならないという社内事情が何かあったのではないだろうか。また、末端からの嘘の報告を管理者が見抜けないという体質を、この会社が内包していた可能性もあるのではないだろうか。
また、この福知山線(宝塚線)は、かつては列車頻度の非常に低いローカル線であった。通勤・通学客の多くは、競合する阪急宝塚線を利用していた。ところが、ここ数十年、列車本数の増加、走行速度の向上、そして大阪市内地下を通って京阪奈丘陵方面への直通運転をするなど、JR西日本は福知山線の利便性向上と収入増を図るための様々な施策を実行してきた。一方で、旧タイプの自動列車停止装置は設けられていたものの、列車の速度を調整するための自動列車制御装置は未だに設けられていなかったと言う。その技術自体は30年以上前には完成していたにも関わらずである。自動列車制御装置が設けられていれば、制限速度を超えた運転は不可能だったはずであり、このような事故を回避できた可能性が高い。
列車密度の高い都市型路線として収益を追求しながら、安全のための投資は後回しにされていたということだろうか。
疑問はいろいろと出てくる。
世界的な競争の中で、企業が生き残っていくためには、経済性の追求が不可避となっている。JR西日本のような国内市場だけで商売をしている会社にも、当然にこの影響は及ぶ。あらゆる企業で、「余裕」が少なくなってきている。
経済性を追及するときに、人間の、あるいは人間の集団の能力を超えるものが要求されているとは言えないだろうか。また、そのことを指摘すること自体が罪悪であるかのように捉えられていないだろうか。安全性を置き去りにした経済性の追求は、決して人類の幸福にはつながらないだろう。
最初のほうにも書いたように、鉄道に限らず、あらゆる産業において同様のことが言える。
安全を最優先するための大きな社会的枠組みが必要である。
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関連ブログ記事:
al dente アル・デンテ:JR西日本 安全管理体制の軽視には、
「事故現場の先にある尼崎駅では4月上旬に、平日10日間にわたって1秒刻みの遅延状況調査を行っています。この調査結果は当然運転士の成績や処分の対象となり、無言のうちに強いプレッシャーを掛けていたものと思います。」と書かれている。
優美の気まぐれ日記★☆:JR福知山線大惨事・・には、
「時間の正確さで確かにJRは売っているかもしれないけれど、それでも安全第一なのが、当たり前じゃない? 安全を意識するならば、運転手の給料に響くのはおかしいだろうし、そんなんシステムの問題でしょ。」と書かれている。
ちいさなstool:1:29:300には、
「1件の重傷事故の下には29件の軽傷事故があり、さらにその下には300件のヒヤリハットがある。安全第一の作業をするということは、重症事故を防ぐことではなくて、ヒヤリハットを削減することによって間接的に重傷事故発生を回避することである。」と書かれている。
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2005年5月14日追記
「たなか@さくらインターネット」(田中邦裕氏/さくらインターネット株式会社 取締役COO) に詳細かつ冷静な分析が記載されている。
列車事故
JR西日本社員
JR西日本 vs 大手私鉄
日勤教育
ダイヤは過密ではない
脱線するほどのカーブの理由
福知山線の復旧とATS-Pの設置
実は裏付けの無い最高速度
© 2005, zig zag road runner.
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